貸倒損失、貸倒引当金、貸倒引当金繰入、貸倒引当金戻入 貸倒れ時の処理
受取手形や売掛金、未収入金などの債権については、代金回収が後日であるため、債務者の倒産などにより債権が回収できなくなるリスクがありますが、回収不能となった場合のことを貸倒れといいます。
なお、貸倒れのリスクに備え、貸倒れの可能性を見積り、事前に貸倒引当金を計上し、貸倒損失による費用の発生が一時に生じないように備えます。
債権には受取手形や売掛金のほか、未収入金、立替金、貸付金などがあり、いずれも貸倒れのリスクがありますが、簿記3級では、取引先との商品売買で生じる売上債権(受取手形、売掛金、クレジット売掛金、電子記録債権)の貸倒処理について学習します。
貸倒損失の計上
売掛金などの売上債権が貸倒れになった時は、その金額を貸倒損失勘定(費用)の借方に記帳するとともに、売掛金勘定の貸方に記帳します。
(借) | 貸倒損失 | ×××円 | (貸) | 売掛金 | ×××円 |
当期に売り上げた売掛金などが当期に貸倒れとなった場合
当期の売上により発生した売掛金などの債権が当期に貸倒れとなった場合は、貸倒損失を計上し、売掛金を減らします。
この場合の貸倒損失は、当期に計上した売上(収益)に起因した費用(貸倒れ)ですので、収益と費用が同じ会計期間で対応しています。
なお、貸倒れは返品ではありませんので、売上の取り消しにはしません。
設例
得意先が倒産し、当期に売り上げた1,000,000円の売掛金の貸倒れが発生した。
(借) | 貸倒損失 | 1,000,000円 | (貸) | 売掛金 | 1,000,000円 |
前期以前に売り上げた売掛金などが当期に貸倒れとなった場合
前期以前の売上にかかる売掛金などの債権が当期に貸倒れとなった場合、収益(売上)は前期以前に計上されていますが、費用(貸倒損失)は当期に計上されてしまいます。
前期以前
(借) | 売掛金 | 1,000,000円 | (貸) | 売 上 | 1,000,000円 |
当期
(借) | 貸倒損失 | 1,000,000円 | (貸) | 売掛金 | 1,000,000円 |
この場合、売掛金の発生と貸倒れの間に決算が入っており、前期以前の利益はすでに確定しているため、収益と費用の期間的な対応がとれません。
そこで、次の章から説明するように将来の貸倒れに備え、貸倒引当金繰入、貸倒引当金勘定を用いて、収益と費用の期間的な対応をとるようにします。
貸倒引当金繰入、貸倒引当金の計上
前期以前に売り上げた売掛金などが当期に貸倒れとなった場合、収益(売上)と費用(貸倒損失)計上の期間的な対応がとれないため、期末に債権を保有する企業においては、翌期以降に債権が回収できなくなるリスクに備えます。
すなわち、翌期以降に債権が回収できなくなる原因はすでに当期に発生していると考え、将来の貸倒れの費用を当期の費用として認識するために、期末債権残高の一定割合の貸倒引当金繰入額(費用)を見積り計上することで収益(売上)と費用(貸倒損失)計上の期間的な対応をとろうとします。
なお、貸倒引当金繰入の計上はあくまで倒産を仮定したものあり、実際に債権が回収できなくなったわけではなく売掛金を直接減額できないので、貸倒引当金繰入の相手勘定は貸倒引当金(評価勘定)として、間接的に控除します。
また、貸倒引当金の計上は決算整理手続きにて行われます。
設例
期末の債権残高1,000,000円に対し、翌期以降の貸倒れに備えるために100,000円の貸倒引当金を計上した。
(借) | 貸倒引当金繰入 | 100,000円 | (貸) | 貸倒引当金 | 100,000円 |
貸倒引当金繰入、貸倒引当金の見積り額の計上方法
貸倒れ額の見積もりは、受取手形や売掛金などの債権の期末残高の合計額に対して行いますが、見積り額の計算は基本的に過去の貸倒実績率などに基づき計算します。
貸倒れの見積額=売上債権の期末残高 × 貸倒実績率
なお、簿記3級の検定では、貸倒実績率は問題で与えられますので、自分で計算することはありません。
貸倒れが実際に発生した時の処理
債権が実際に貸倒れになった時の処理は、貸倒引当金残高の有無や金額、いつ発生した債権の貸倒かにより処理が異なります。
貸倒れの金額が貸倒引当金残高より小さい場合
貸倒れた金額が貸倒引当金残高より小さい場合は、貸倒れとなった債権額を取り消すとともに、同額の貸倒引当金を取り崩します。
設例
得意先A社が倒産し、債権600,000円が貸倒れとなった。なお、貸倒引当金残高は1,000,000円ある。
(借) | 貸倒引当金 | 600,000円 | (貸) | 売掛金 | 600,000円 |
貸倒れの金額が貸倒引当金残高より大きい場合
貸倒れた金額が貸倒引当金残高より大きい場合は、貸倒れとなった債権額を取り消すとともに、同額の貸倒引当金を全額取り崩し、貸倒引当金の金額を超えて貸倒れとなった額は貸倒損失で処理します。
設例
前期末に期末の債権残高1,000,000円に対し、翌期以降の貸倒れに備えるために100,000円の貸倒引当金を計上していたが、売掛金1,000,000円全額が貸倒れになることが確定した。
(借) | 貸倒引当金 | 100,000円 | (貸) | 売掛金 | 1,000,000円 |
(借) | 貸倒損失 | 900,000円 |
当期発生した債権が貸倒れた場合
当期に発生した債権が貸倒れた場合は、貸倒引当金残高の有無に関係なく、全額を貸倒損失として処理します。
貸倒引当金を取り崩すことはありません。当期発生した債権については、決算で貸倒れの見積額を計算していないためです。
設例
当期、1,000,000円で商品を掛けで販売したが、500,000円だけ現金で回収し、残りは貸倒れとなった。
(借) | 売掛金 | 1,000,000円 | (貸) | 売 上 | 1,000,000円 |
(借) | 現 金 | 500,000円 | (貸) | 売掛金 | 500,000円 |
(借) | 貸倒損失 | 500,000円 | (貸) | 売掛金 | 500,000円 |
前期末に計上した貸倒引当金の残高がある場合の決算整理手続き
貸倒引当金の見積もりは、毎決算期において行われますが、計上額はあくまで予想ですので、実際の回収不能額と一致することはほとんどありません。
そのため、前期末の貸倒引当金の額より回収不能となった債権の金額が小さい場合、貸倒引当金が残ります。
この残った貸倒引当金と当期の決算において計上が見積もられた引当金との差額を当期の決算整理にて調整をします(差額補充法)。
差額補充法においては、貸倒引当金の残高と当期の見積額のいずれが大きいかにより、差額調整の処理が異なります。
貸倒引当金の残高が当期の貸倒見積り額より小さい場合
貸倒引当金の残高が当期の貸倒見積り額より小さい場合は、貸倒引当金が不足していますので、不足額を追加で計上します。
貸倒引当金の追加計上額=当期の貸倒見積額-貸倒引当金の残高
仕訳例1
当期の決算にて債権が1,000,000円あり、貸し倒れの見積りが200,000円と計算されたが、貸倒引当金残高が150,000円であった。
(借) | 貸倒引当金繰入 | 50,000円 | (貸) | 貸倒引当金 | 50,000円 |
貸倒引当金の残高が当期の貸倒見積り額より大きい場合
貸倒引当金の残高が当期の貸倒見積り額より大きい場合は、貸倒引当金が過大計上になっていますので、過大額を取り崩します。なお、貸倒引当金を取り崩した場合の相手勘定は「貸倒引当金戻入」(収益)となります。
貸倒引当金の取り崩し額=貸倒引当金の残高-当期の貸倒見積額
仕訳例2
当期の決算にて債権が1,000,000円あり、貸し倒れの見積りが100,000円と計算されたが、貸倒引当金残高が250,000円であった。
(借) | 貸倒引当金 | 150,000円 | (貸) | 貸倒引当金戻入 | 150,000円 |
仕訳例1、仕訳例2から分かるように、貸倒引当金の次期繰越額は、貸倒引当金の残高と当期の見積額のいずれが大きい場合においても必ず当期末の貸倒見積り額となります。
設例
(1)期末の受取手形残高100,000円、売掛金残高200,000円であり、これらの債権のうち5%は回収不能になると見込まれる。決算整理前の貸倒引当金残高は10,000円である場合の貸倒引当金の決算整理仕訳。
(借) | 貸倒引当金繰入 | 5,000円 | (貸) | 貸倒引当金 | 5,000円 |
(100,000円+200,000円)×5%=15,000円
15,000円-10,000円=5,000円
当期の貸倒引当金の見積額が決算整理前の貸倒引当金残高より大きいので、貸倒引当金を繰り入れる(追加計上)することになります。
(2)期末の受取手形残高200,000円、売掛金残高100,000円であり、これらの債権のうち2%は回収不能になると見込まれる。決算整理前の貸倒引当金残高は20,000円である場合の貸倒引当金の決算整理仕訳。
(借) | 貸倒引当金 | 14,000円 | (貸) | 貸倒引当金戻入 | 14,000円 |
(200,000円+100,000円)×2%=6000円
20,000円-6,000円=14,000円
当期の貸倒引当金の見積額が決算整理前の貸倒引当金残高より小さいので、貸倒引当金を戻す(収益計上)ことになります。
洗替法
貸倒引当金の会計処理方法には差額補充法の他に洗替法がありますが、現在の簿記の検定試験では洗替法は廃止され、差額補充法のみとなっています。
法人税法では洗替法が原則で、税理士試験では洗替法の出題もありえます。
洗替法では、決算整理前に残っている貸倒引当金を一度なくし、改めてもう一度貸倒引当金を計上します。
設例
(1)期末の受取手形残高100,000円、売掛金残高200,000円であり、これらの債権のうち5%は回収不能になると見込まれる。決算整理前の貸倒引当金残高は10,000円である場合の貸倒引当金の決算整理仕訳。
(借) | 貸倒引当金 | 10,000円 | (貸) | 貸倒引当金戻入 | 10,000円 |
(借) | 貸倒引当金繰入 | 15,000円 | (貸) | 貸倒引当金 | 15,000円 |
決算整理前の貸倒引当金残高(10,000円)を一度取り崩し、当期の貸倒見積り額(15,000円)を全額計上します。
(2)期末の受取手形残高200,000円、売掛金残高100,000円であり、これらの債権のうち2%は回収不能になると見込まれる。決算整理前の貸倒引当金残高は20,000円である場合の貸倒引当金の決算整理仕訳。
(借) | 貸倒引当金 | 20,000円 | (貸) | 貸倒引当金戻入 | 20,000円 |
(借) | 貸倒引当金繰入 | 6,000円 | (貸) | 貸倒引当金 | 6,000円 |
決算整理前の貸倒引当金残高(20,000円)を一度取り崩し、当期の貸倒見積り額(6,000円)を全額計上します。
なお、差額補充法、洗替法どちらであっても全体での利益(税引前当期純利益)は変わりません。ただし、貸倒引当金繰入は販売管理費に計上され、貸倒引当金戻入益は特別利益に計上されますので、差額補充法と洗替法では、営業利益、経常利益レベルでの損益は異なります。
前期以前に貸倒れ処理した債権を回収した時の処理 償却債権取立益
前期以前に貸倒れ処理した債権の全部または一部が、当期に回収されることがあります。
このような債権については、すでに帳簿上残高がありませんので、回収した金額を償却債権取立益勘定(収益)で処理します。
設例
前期に貸倒れ処理した売掛金1,000,000円のうち300,000円が現金で回収された。
(借) | 現 金 | 300,000円 | (貸) | 償却債権取立益 | 300,000円 |