行政書士の資格と仕事内容、働き方、働く場所。年収、将来性、資格取得のメリット、難易度は?
行政書士という資格はどこかで聞いたことがある人も多いと思います。
行政書士は飲食店の営業許可申請や遺産分割協議書などの作成・申請など官公署とのパイプ役として生活に密着した行政業務を行うことを仕事としているためと思われますが、実際にどのようなことをしているかを知っている人は少ないと思います。
行政書士の資格は業務独占資格といわれる国家資格で、そのため行政書士は医師や弁護士と同じように資格がないとできない仕事です。
受験資格に制限がありませんので、誰でも試験に合格しさえすれば行政書士の仕事ができますが、ここ近年の合格率は10%弱と低く、難易度の高い試験となっています。そのため資格を持っているだけで就職や転職の際には評価される傾向にあり、また、行政書士として独立開業することも可能であるため、人気の高い資格となっています。
そこでここでは、行政書士とはどんな仕事なのか?その仕事内容・働き方、働く場所、将来性、収入、魅力など資格取得のメリットなどをご紹介します。
行政書士とは?行政書士になるには?
行政書士は行政書士法に基づく国家資格で、他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類その他権利義務又は事実証明に関する書類を作成することを業とします(行政書士法一条の二)。
行政書士になるには行政書士試験に合格する必要がありますが、
そのほか
(1)弁護士、弁理士、公認会計士、税理士となる資格がある人
(2)公務員として行政事務を担当した期間及び行政執行法人又は特定地方独立行政法人の役員又は職員として行政事務に相当する事務を担当した期間が20年以上ある人
は行政書士試験を受けなくても行政書士になることができます(行政書士法二条)。
行政書士の欠格事由・欠格要件は?
上記にかかわらず、下記のいずれかに該当する者は、行政書士となる資格がありません。
(1)未成年者
(2)成年被後見人(認知症、知的障害、精神障害などの理由で判断能力が常時欠けている方)又は被保佐人(認知症、知的障害、精神障害などの理由で判断能力が著しく不十分な方)
(3)破産者で復権を得ないもの
(4)禁錮以上の刑に処せられた者で、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなつてから3年を経過しないもの
(5)公務員(行政執行法人又は特定地方独立行政法人の役員又は職員を含む)で懲戒免職の処分を受け、当該処分の日から3年を経過しない者
(6)偽りや不正手段により行政書士登録を受けたことが判明し、登録の取消し処分を受け、当該処分の日から3年を経過しない者
(7)行政書士が、行政書士法若しくはこれに基づく命令、規則その他都道府県知事の処分に違反したとき又は行政書士にふさわしくない重大な非行があつたことにより都道府県知事から業務の禁止の処分を受け、当該処分の日から3年を経過しない者
(8)懲戒処分により、弁護士会から除名され、公認会計士の登録の抹消の処分を受け、弁理士、税理士、司法書士若しくは土地家屋調査士の業務を禁止され、又は社会保険労務士の失格処分を受けた者で、これらの処分を受けた日から3年を経過しない者
行政書士の仕事内容・仕事の範囲
行政書士は、他人の依頼を受け報酬を得て、以下に掲げる事務を業とすることとされています。ただし、その業務を行うことが他の法律において制限されているものについては、業務を行うことができません(行政書士法一条の二、一条の三)。
(1)官公署に提出する書類、その他権利義務又は事実証明に関する書類の作成(行政書士法一条の二1項)
(2)官公署に提出する書類の提出及び官公署に提出する許認可等の聴聞又は弁明の機会の付与の手続、その他意見陳述のための手続において官公署にする行為(弁護士法第72条の法律事件に関する法律事務に該当するものを除く)の代理(行政書士法一条の三1項)
(3)行政書士が作成した官公署に提出する書類の許認可等に関する審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立ての手続の代理及びその手続について官公署に提出する書類の作成(行政書士法一条の三2項)
(4)行政書士が作成することができる契約その他に関する書類を代理人として作成(行政書士法一条の三3項)
(5)行政書士が作成することができる書類の作成について相談に応ずる(行政書士法一条の三4項)
また、上記の仕事内容・範囲は、下記のように3つの区分に分けられます。
1.行政書士にしかできない独占業務(行政書士法一条の二1項)
2.他士業との共同法定業務(行政書士法一条の二2項)
3.非独占業務として官公署に提出する書類の提出手続きの代理や契約書類を代理人として作成すること(行政書士法一条の三)
になります。
1.行政書士にしかできない独占業務
行政書士法以外の法律で制限されている場合を除き、他人から依頼を受け報酬を得て、(1)官公署に提出する書類の作成、(2)その他権利義務に関する書類の作成、(3)事実証明に関する書類の作成することは行政書士の独占業務になっています(行政書士法一条の二)。
(1)官公署に提出する書類の作成
各省庁や都道府県庁、市・区役所、町・村役場などの官公署に提出する書類の作成や、これらの書類の内容の相談、提出する手続きについての代理は行政書士の独占業務となっています。
具体的には、
①建設業の許可申請
②開発許可申請
③農地転用の許可申請
④入札資格審査申請、
⑤風俗営業の許可申請
⑥在留資格申請
など
(2)権利義務に関する書類の作成
「権利義務に関する書類」とは、権利の発生、存続、変更、消滅の効果を生じさせることを目的とした書類を言います。
行政書士は、これらの書類の作成(代理人としての作成含む)、相談ができます。
具体的には、
①遺産分割協議書の作成
②売買、交換、消費貸借、使用貸借、賃貸借、請負、雇用、示談などの契約書の作成
③就業規則などの約款の作成
④告訴状、告発状の作成
⑤定款など会社・法人設立の必要書類の作成
⑥請願書、陳情書、上申書、始末書、行政不服申立書の作成
など
(3)事実証明に関する書類の作成
「事実証明に関する書類」とは、社会生活にかかわる交渉を有する事項を証明するにたる文書を言います。
行政書士は、これらの書類の作成(代理人としての作成含む)、相談ができます。
具体的には、
①土地購入に必要な実地調査、各種図面作成、隣地所有者の同意手続きなど土地建物の調査や簡易実測に基づく現況測量図などの作成
②日々の会計記帳、経理仕訳、起票、データ入力、財務諸表の作成
③内容証明、議事録の作成
など
2.他士業との共同法定業務
他の法律で行政書士以外の士業の独占業務とされているものは、行政書士の独占的な業務にはなりません(行政書士法一条の二2項)が、他の士業法によって、共同法定業務として許容されているものは、行政書士の非独占業務として認められる、と解されています。
具体的には、
①非紛争的な契約書・協議書類の作成 → 弁護士との共同業務
②著作権ライセンス契約書の作成 → 弁理士との共同業務
③法務大臣宛帰化許可申請書、司法警察機関あての告訴状・告発状の作成 → 司法書士との共同業務
④ゴルフ場利用税、自動車税、軽自動車税、自動車取得税、事業所税、石油ガス税、不動産取得税、都道府県たばこ税、市区町村たばこ税、特別土地保有者税、入湯税に関する場合等に関する書類作成業務 → 税理士との共同業務
⑤1ヘクタール未満の開発行為の設計図書を含む開発許可申請書作成 → 建築士との共同業務
⑥労働・社会保険法令上の申請書等、帳簿書類の作成といった業務 → 社会保険労務士との共同業務
3.非独占業務として官公署に提出する書類の提出手続きの代理や契約書類を代理人として作成
これについては、行政書士法一条の三1~4項が該当します。
行政書士の具体的な仕事
遺言・相続・老後に関する相談など
遺言書(自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言)の起案・作成の支援、公正証書遺言においては証人就任、遺産相続における遺産分割協議書、財産目録、相続関係説明図等の作成、相続財産の調査、相続人の確定調査などを引き受けます。
法的紛争事案や相続税、登記申請に関するものは除かれます。
また、任意後見契約に関する書類作成等についても引き受けます。
任意後見契約とは、委任者が将来認知症などで自分の判断能力が低下した場合に、自分の後見人になってもらうことを委任する契約です。行政書士は、任意後見契約に関する書類作成などを引き受けます。
交通事故に関する相談など
交通事故において、被害者からの依頼に基づき後遺障害に関する調査や加害者または被害者からの依頼に基づき事故調査、治療費、休業損害、自賠責保険の請求手続を引き受けます。
また、被害者の依頼に基づき損害賠償額の算出に関する資料作成、損害賠償金の請求手続を行います。
なお、加害者、被害者双方で示談が成立している場合は、示談書の作成も引き受けます。
自動車登録に関する相談など
車を購入するとナンバー変更、ナンバープレート取り替え、名義変更、車庫証明の取得など様々な申請が必要になります。
自動車登録関係は地方運輸局へ、車庫証明は警察署に届け出る必要があります。
行政書士は、自動車登録(新規・変更・抹消)、車検証、車庫証明、自動車抵当権設定、出張封印(自動車の置かれた場所まで出向き、新しいナンバープレートを取り付け)など自動車関係の申請書類の作成、必要資料の収集・作成、そして申請代理を引き受けます。
日本国籍取得・永住に関する相談など
外国人が日本国籍を取得するには「帰化許可申請」が必要で、また、日本人や日本での永住者と結婚し適法に日本で暮らすためには、「日本人の配偶者等」や「永住者の配偶者等」の在留資格が必要となります。
帰化許可申請は在留資格や家族構成、就業状況等により証明書類や作成書類が異なり、日本で永住希望の場合は永住許可申請をしますが、在留資格や在留状況等によって異なる要件があり、それに応じた証明書類や作成書類が必要です。
行政書士は、国籍や永住、長期在留に関すること、また、国際結婚や離婚、相続、養子縁組等について、外国人の方からの依頼を引き受けます。
契約書・協議書、内容証明、公正証書等、各種書面作成に関する相談など
雇傭、請負、消費貸借、使用貸借、賃貸借、贈与、売買、委任、寄託、和解等の契約書、内容証明、公正証書、念書、協議書、内容証明、嘆願書、請願書、陳情書、上申書、始末書、定款等の権利義務に関する書類の作成依頼を引き受けます。
農地・山林に関する相談など
農地転用や開発行為の申請書類と添付書面の作成が必要ですが、これらの書類は煩雑で、作成には高度な専門知識が必要のため書類作成を代行します。
「農地転用」とは、農地に区画、形、質の変更をして家を建てたり、他の目的に利用することですが、農地は農地法によって農地以外の使用を厳しく制限されているため、これらの行為をする場合は許可が必要とされています。
また、「開発行為」とは農地に建物等を建築するため、一定規模以上の土地に変更を加えることで、これらの行為をする場合は許可が必要とされています。
法人立ち上げに関する相談など
株式会社、NPO法人、医療法人、社会福祉法人、学校法人、組合など法人の設立手続を引き受けます。
NPO法人や医療法人等、設立前に市町村や都道府県の認証・認可手続が必要なもの、外国会社のように領事認証や在留資格認定申請が必要なものがありますが、これらの申請手続、設立後の変更手続も引き受けます。
外国人雇用に関する相談など
外国人を雇用する場合は外国人が自ら入国管理局に出頭する必要ありますが、申請取次行政書士に依頼することで当該行政書士が入国管理局で申請しますので、外国人は入国管理局へ出頭する必要がなくなります。
営業許可申請や手続に関する相談など
一定規模以上の工事を請負う建設業を営む場合は、都道府県知事、または国土交通大臣の許可が必要です。
また、公共事業の入札には経営事項審査申請や、入札参加資格登録の申請が必要です。
飲食店は、営業開始前に保健所に必要書類を提出し、施設が衛生基準を満たしているか確認を受ける必要があります。ナイトクラブやパチンコなどを開業するには警察署への風俗営業許可申請が必要になります。
バス・タクシー等の運送業を始めるためには、許可申請書を作成しなければなりません。また、特殊車両の通行許可申請や、軽貨物・運転代行業の開業手続も必要です。
有料老人ホーム業などの福祉事業を始めるには、各自治体の基準を満たす必要があります。
このように事業を始めるには、業種によっては、一定の要件を満たし行政の許可がなければならないものがありますが、行政書士は、許可を得るために必要となる要件が整っているか、要件を満たすために何が必要かについて調査し、申請への準備を手伝います。また必要に応じて、行政担当者との打ち合わせや補正書類等の作成・提出、許可証等の受理まで行います。
知的資産経営・知的財産権に関する相談など
知的資産経営導入と知的資産経営報告書の作成を引き受けます。
知的資産経営とは、経営理念、人材、技術力、ブランドなど数値として表せないけれど、競争力、収益の源泉となっているものを組み合わせることで収益力のアップにつなげる経営をいいます。
知的資産経営報告書とは、経営理念、人材、技術力、ブランドなど重要な知的資産の認識・評価を行い、それらをどのように活用して企業の価値創造につなげていくかを示す報告書です。
知的財産権の相談については、著作権などの登録から相談、そして活用方法などのアドバイスを引き受けます。
著作権は、登録により発生するものではなく、文章などを作った段階で自動的に発生していますが、第三者に著作権の権利関係を示したい場合は、文化庁に著作権の登録することができます。この著作権の登録は発生だけでなく、移転についても可能です。行政書士は、著作権の文化庁への登録申請業務も行います。
行政書士の魅力、資格取得のメリット
行政書士の魅力は、なんと言っても試験の難易度の割に取り扱い業務が広く、顧客になる対象が多いことです。
弁護士は裁判関連、司法書士は登記、一部訴訟関係、税理士は税務申告関連、社会保険労務士は労務関連とジャンルが絞られますが、行政書士は遺言・相続・老後、自動車登録、交通事故、国籍取得、法人設立、営業許可取得に関する相談など個人、法人問わず、また誰もが日常生活で遭遇することに関わります。
一方で全ての業務を取り扱う必要はなく、特定分野専門の行政書士としても活動できるため、資格さえ取得してしまえば、自分の得意分野、興味のある分野に特化して仕事ができ、自分の個性を活かすことが顧客満足を高め、お客さんに喜んでもらえます。
前職のある方であれば業務に関する知識がありますので、ビジネス上もより優位な立場に立てます。
税理士、社会保険労務士、宅建士など需要が必ずある資格を取得するか、そういった方と組めば、商売上相当優位な立場に立てる可能性が高くなります。
相続、離婚、交通事故、民事トラブルなど個人の欲望や利益が絡む問題の解決など、個人の感情が絡み複雑で、きれい事で済まされない泥臭いことも業務対象で、どれも生易しくなく、きれい事で済まされない事も多いですが、もめ事の解決、予防を通してお客さんに役立ち、喜んでもらえ、社会に貢献できるといった点でやり甲斐のある仕事です。
扱える業務が広いからこそ、自分の仕事が社会貢献できるようデザインできます。
行政書士の働き方、働く場所
行政書士としての働き方、働く場所としては、法律事務所や一般企業、行政書士事務所へ就職する、独立開業するといった方法が考えられます。
弁護士事務所や税理士事務所、社会保険労務士事務所などでは、顧客を増やすべく業務拡大を検討しているところも多く、そういった事務所では採用される可能性が高いです。
しかし、需要は決して多くないというのが実情です。
一般企業においては幅広い法務の知識のある人材を求めていることもありますので、そういった企業への就職に有利な可能性はあります。しかし、行政書士の資格が一般企業への就職に有利に働くかといえばあまり期待しない方が賢明です。
一般企業では官公署などに提出する書類の数は一定数はあるもののそれほど多くなく、行政書士の資格を持つ人をわざわざ雇用するほどの需要がないからです。
行政書士事務所への就職ですが、実務経験を積め、事務所運営のノウハウを勉強できることを考えると非常に効率的です。
しかし、行政書士事務所のほとんどが求人していないというのが実情です。うまく就職できたとしても、長く雇ってもらえる保証はないと思っておいた方がいいでしょう。
このように考えると、行政書士の資格自体が独立開業に向いたものといえます。
ですから行政書士としての専門性を活かした働き方、働く場所を考えた場合、最終的には、独立開業して事務所を設立することを念頭においておきましょう。
このように就職先としては広く需要のある資格ではありませんが、大きな開業資金、運営費が必要でないため個人での開業は他の資格に比べ簡単です。パソコンとプリンター、電話、FAX、コピー機さえあれば開業できますので最初は自宅開業から始め、徐々に大きくしていくことが可能です。
なお、一般企業への就職や他の資格取得を考えている方であっても、行政書士資格の勉強をすることは賛成です。
行政書士資格の勉強においては、基礎法学、憲法、民法、行政法、商法、政治・経済・社会、情報通信・個人情報保護といった一般常識を学びますので、就職だけでなく社会人として仕事をしていく上で非常に役立つからです。
行政書士で独立開業するには?
行政書士として独立開業する際に考えなければならないこととして、「取り扱う業務内容の範囲」と「開業する場所」があります。
「取り扱う業務内容の範囲」としては、「全ての行政書士業務を対象にする」か「特定の専門分野に特化する」かのいずれかを考える必要があります。
どちらもメリットとデメリットがあり、また個人の特性や開業エリアによりおすすめの方法は異なります。
「全ての行政書士業務を対象にする方法」は個人・法人問わず全ての個人、法人が顧客になる可能性がありますので片っ端から営業していくことになります。
この方法のメリットは、営業対象が広く、数も多いので営業対象がなくなってしまうリスクが非常に低いことです。
建設業の許可や営業許可などは法人や個人事業主しか営業対象になりませんが、相続や車庫証明などは財産の多い少ないにかかわらず多くの個人が対象になります。
デメリットとしては、扱う分野が広くなりすぎて専門的なノウハウ、知識が付きにくいことです。また法令の改正や制度の変化などにも追いつかなくなりがちで、お客さんからの信頼が得られにくくなりがちです。
一方、「特定の専門分野に特化する方法」は、専門分野を1件か数件に絞り、その分野だけに特化して業務を行う方法です。
この方法のメリットは、営業面にしてもノウハウや知識に関しても的を絞れるため仕事が非常にしやすいことです。
分野は限られますが知識やノウハウもたまりますので、その分野における専門家としてお客さんからの信頼も得られます。
デメリットは、営業対象が極端に減ることです。特化した業務分野以外の分野であれば見込み客になり得る相手であっても「自分には関係ない」と思われがちです。
また営業対象が狭いことは景気や時代の変化に大きな影響を受けがちです。会計帳簿の作成や営業許可関連に特化した場合、対象顧客は法人ないし事業主だけになりますので景気の影響をもろに受けます。事実、会社の設立手続きなどは相当に簡素化されつつあります。
このような2つの方法のメリット、デメリットを考えると、全ての業務を対象にする必要はありませんが、自分が得意とする分野、他の行政書士より営業面や知識面でアドバンテージが取れる分野、興味のある分野を、将来的に尻すぼみにならないと思われる分野のいくつかに特化しつつ、可能な限り徐々に業務範囲を広げていくことが、事務所経営といった観点からは非常に重要といえるでしょう。
「開業する場所」に関しても「地方など行政書士の少ないエリア」で開業するか、「行政書士も多いが見込み客も多くいる大都市」で開業するか大きく2つの考え方があります。
個人の特性や開業形態、住んでいるエリアによりおすすめの方法は異なります。
行政書士の少ないエリアでは需要と供給を比較した場合、需要が多くなりがちです。そのため、「全て、もしくは比較的多くの業務を対象にする方法」をおすすめします。地方としては行政書士の数も少ないので、お客さんは個人のことから法人関連のことまで色んな事を求める傾向があります。そのため立地条件の良い場所で開業し、1件1件の仕事を堅実にこなしていくことで信頼関係が高まり、紹介や口コミも相まって色んな仕事を受けることができる可能性があります。
一方、大都市で開業する場合には、特化する分野をある程度絞り込む方法をおすすめします。これは、大都市では多くのお客さんは「行政書士」ではなく「専門家」を探しているからです。
そもそも行政書士の仕事は、行政書士の資格がなくても依頼者自身、もしくは特定分野の知識があればできることが多いです。行政書士に仕事を依頼しているのは、無駄な時間を省き無難に依頼内容をこなしてくれることを期待できるからです。
依頼分野に詳しくなくても受注できるとしたら報酬が相当安いか直接の知り合いかなどの理由がある場合だけです。
行政書士として開業した人の話を聞くと、営業だけでなく業務処理の時間も必要ですので活動できる範囲はどうしても限定されてしまうようです。
業務の数は多いですが、全てを把握し、請け負いできるといっても、逆に信頼を得られないことが多いようです。複数の行政書士で運営している事務所であれば話は別ですが。
やはり得意業務を何件か持ち、その分野であれば他の行政書士に負けないといった感じの方が成功できる確率が高いようです。
行政書士の年収、将来性
行政書士の合格者は毎年4~6千人で毎年これだけの新しい行政書士が誕生しています。
行政書士は基本的に独立型の資格ですので毎年4~6千人近いライバルが出てきます。引退する行政書士もいるため4~6千人が純増ではありませんがライバルが多いことは事実です。
そのため年収は300万円~1000万円以上と幅があり、儲かっている行政書士もいますが、そうでない行政書士も数多くいるというのが現状です。
平均すると500万円~600万円のようです。サラリーマンの平均年収と比較すると少し高いくらいですが、年金や退職年齢がないことを考えた場合、これを高いと感じるか安いと感じるかは個々人によると思います。
いずれにせよ独立開業型の資格ですので、初期投資や固定費のリスクは異なりますが、日々の売上げを上げていく努力は自ら会社を立ち上げる社長と変わりなく、収入は自分が頑張れば頑張った分、自分に返ってくるといった感じです。
営業対象が広いためか2000万や3000万稼いでいる行政書士もいますのでサラリーマンに向かない人にはお勧めです。
将来性に関しては、官公署へ提出書類の作成などは電子化へ移行していく傾向にあると思われますが、その反面、今後は知的資産経営などのコンサルタティング分野での活躍が期待されています。そのため、財務面の知識をもち、人脈や顧客ネットワークをうまく作れれば、業務範囲が広いので将来性は大きく広がる可能性があります。
行政書士に向いてる人
行政書士は、専門家であるとともにサービス業ですので、行政書士に求められるのものとして、
①お客さんとのコミュニケーションがとれ、お客さんの立場に立って物事を考えられること
②業務に関する探究心、好奇心が強く、社会の変化に対応できること
③事務処理能力に長けていること
といったことが挙げられます。
①お客さんとのコミュニケーションがとれ、お客さんの立場に立って物事を考えられる
行政書士は、お客さんの希望、困り事を解決することが仕事です。
そのため、お客さんがどのような問題を抱え困っているのかを正確に引き出す必要があります。
当たり前の事ですが、自分の言いたいこと言う事で満足してしまう人では、お客さんからの信頼を得ることができません。
お客さんの話をよく聞き、理解し、適切な受け答えができること、お客さんの立場に立って考えられる能力が求められます。
②業務に関する探究心、好奇心が強く、社会の変化に対応できる
行政処理の取り扱う書類は1万1000種類ともいわれ、また分野も建設業、農地開発許可、風俗営業、国籍取得など非常に広範囲の内容となっています。
そのため、聞いたことも、経験したこともないような業界についての知識が必要になる依頼も多々出てきます。
各業界の法改正も頻繁ですので書類の作成のために、調べなければならないことも多く、常に情報のキャッチアップ、不明なことは根気強く調べ抜く姿勢が必要となります。
また、行政書士の仕事の大半は書類の作成になりますが、最近は許認可取得前のコンサルティングや許認可取り消しの前の弁明、知的資産経営報告書作成など従来にはなかったことも求められるようになっています。
こういった状況において、さまざまな業界に興味を持ち、変化に適応できる能力が求められます。
③事務処理能力に長けている
1万1000種類を超えると言われる書類を取り扱い、さらにそれらの書類は契約書や営業許可、相続関連書類といった非常に重要な書類ばかりです。
さらに、お客さんからの要望や書類の提出期限があるため、書類作成のスピードが求められることはもちろん、勘違いや誤字脱字などのケアレスミスはお客さんはじめとする関係各方面へ多大な損害をあたえる可能性がありますので非常に正確性を求められます。
自分は営業だけ担当し、書類作成は事務員に任せることも可能ですが、事務員に教えるにも自分が理解している必要があり、そのためには、お客さんからの要望の聴取、書類作成、提出までの一連の流れを全て経験しておく必要があります。
行政書士試験の合格率の推移
年度 | 申込者数 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
---|---|---|---|---|
2014年度 | 62,172 | 48,869 | 4,043 | 8.2% |
2015年度 | 56,965 | 44,366 | 5,820 | 13.1% |
2016年度 | 53,456 | 41,053 | 4,084 | 9.9% |
2017年度 | 52,214 | 40,449 | 6,360 | 15.7% |
2018年度 | 50,926 | 39,105 | 4,968 | 12.7% |
行政書士試験の概要
受験資格 | 年齢、学歴、国籍等に関係なく、だれでも受験できます。 |
---|---|
試験日程及び時間 | 毎年1回、11月第2日曜日 午後1時から午後4時まで |
試験科目 | 「行政書士の業務に関し必要な法令等」(46題) 憲法、行政法(行政法の一般的な法理論、行政手続法、行政不服審査法、行政事件訴訟法、国家賠償法及び地方自治法が中心)、民法、商法及び基礎法学からそれぞれ出題。 (法令については、試験実施日の属する年の4月1日現在施行法令に関して出題) 「行政書士の業務に関連する一般知識等」(14題) 政治・経済・社会、情報通信・個人情報保護、文章理解。 |
試験方法 | 試筆記試験。出題形式は「行政書士の業務に関し必要な法令等」は択一式及び記述式、「行政書士の業務に関連する一般知識等」は択一式。 |
試験場所 | 毎年7月の第2週に公示。現住所、住民票記載住所に関係なく、47都道府県いずれの試験場でも受験できます。 |
受験申込受付期間 | 【インターネットでの申込み】 8月初旬~8月下旬ごろ 申込み条件に同意し、受験願書と顔写真画像を登録。 クレジットカード又はコンビニエンスストアで受験手数料払込み。 登録完了メールの到着により申込み完了。【郵送での申込み】 8月初旬~8月下旬ごろ 受験願書の記入と顔写真の貼付。 専用の振替払込用紙で郵便局窓口で受験手数料払込み。 願書に振替払込受付証明書を貼付し、必ず簡易書留郵便にて郵送。 願書が行政書士試験研究センターに到着し、センターから不備等の問合せがなければ申込み完了。 |
受験料 | 7,000円 |
願書入手方法 | 下記問い合わせ先から入手します。 一般財団法人 行政書士試験研究センター 〒102-0082 東京都千代田区一番町 25 番地 全国町村議員会館3階 TEL【 試験専用 】:03-3263-7700 |
受験票送付 | 10月中旬~下旬 |
試験結果発表・合否通知書・合格証の送付 | 1月第5週の公示日に受験者全員へ合否通知書を送付。 合否通知書には合否、配点、合格基準点、得点が記載。 合格者には2月中旬~下旬に合格証を送付。 |