当期純利益・純損失の繰越利益剰余金への振替、配当金と利益準備金による繰越利益剰余金の処分・取り崩し仕訳
株式会社の決算においては、決算振替仕訳において全ての収益勘定と費用勘定を損益勘定に振り替えます。そのため損益勘定において当期純利益または当期純損失が計算されます。
当期純利益または当期純損失は、さらに貸借対照表の純資産の部の繰越利益剰余金勘定に振り替えられ、翌期以降に繰り越されます。そのため繰越利益剰余金は、各期の利益又は損失の累計額であり、株式会社においては、株主からの払込額である資本金と営業活動の成果としての繰越利益剰余金を明確に区分し、配当金や利益準備金の積み立て(繰越利益剰余金の処分・取り崩し)は繰越利益剰余金だけを源泉としています。
ここでは、当期純利益または当期純損失の繰越利益剰余金への振り替え、株式会社の利益の所有者である株主への配当、債権者保護のための強制的な留保利益である利益準備金の処理について解説します。
当期損益の繰越利益剰余金への振替
当期純利益(または当期純損失)は損益勘定において計算され、繰越利益剰余金へ振り替え、株主総会で処分の決まっていない利益として繰越利益剰余金勘定にプールされます。損益の繰越累計額が損失の場合は繰越利益剰余金がマイナス残高になります。
当期純利益が計上されたときの繰越利益剰余金への振替
上記の様に損益勘定にて計算された当期純利益が1,190,000円の場合、次の決算振替仕訳により繰越利益剰余金勘定の貸方へ1,190,000円が計上されます。
(借) | 損 益 | 1,190,000円 | (貸) | 繰越利益剰余金 | 1,190,000円 |
当期純損失が計上されたときの繰越利益剰余金への振替
上記の様に損益勘定にて計算された損益が当期純損失となった場合、次の決算振替仕訳により繰越利益剰余金勘定の借方へ300,000円が計上されます。
(借) | 繰越利益剰余金 | 300,000円 | (貸) | 損 益 | 300,000円 |
配当金、利益準備金による繰越利益剰余金の処分・取り崩し
株式会社の利益は、会社の所有者である株主のものですので、会社は配当という形で株主に利益を還元します。
ただし、獲得した利益のすべてを株主に払い戻してしまうと会社の債権者の債権回収原資が無くなってしまうため、会社法では会社債権者保護の観点から株主に配当する額を規制しています。
すなわち配当は基本的に、株主総会において決定され、さらに会社が獲得した利益の累計額のうち株主総会において未処分とされた額である繰越利益剰余金から支払う必要があります。
さらに配当を行うごとに、配当額の10分の1以上を資本金の4分の1に達するまで利益準備金として積み立てなければなりません(本来は、剰余金の配当をする場合は、利益準備金と資本準備金の合計額が資本金の4分の1に達するまで、配当額の10分の1以上を資本準備金または利益準備金として積み立てなければなりませんが、簿記3級では資本準備金は出題の範囲外ですので、ここでは利益準備金だけでの話としています。)。
そして、この利益準備金は資本金と同様、原則として配当の原資とすることができません。
このようにして会社法は、配当による会社財産の社外流出に一定の歯止めをしています。
配当金、利益準備金の仕訳
株主総会において配当が決議された場合、会社は繰越利益剰余金を減らし、未払配当金、利益準備金を計上します。
そして後日、配当金が支払われたときに未払金勘定を借方に記帳し、預金残高を減らします。
設例
20×1年6月28日の株主総会において繰越利益剰余金からの配当金が1,000,000円と決議された。資本金は30,000,000円であり、利益準備金の繰越額は2,500,000円、繰越利益剰余金は5,000,000円、利益準備金の積み立ては配当額の10分の1とする。
7月1日に未払配当金の全額が普通預金から支払われた。
20×2年3月31日に決算をむかえ、当期純利益が2,000,000円と算定された。
20×1年6月28日
(借) | 繰越利益剰余金 | 1,100,000円 | (貸) | 未払配当金 | 1,000,000円 |
(貸) | 利益準備金 | 100,000円 |
20×1年7月1日
(借) | 未払配当金 | 1,000,000円 | (貸) | 普通預金 | 1,000,000円 |
20×2年3月31日
(借) | 損 益 | 2,000,000円 | (貸) | 繰越利益剰余金 | 2,000,000円 |