君がサンタクロース~不思議な話 ミステリー

子供にとってクリスマスは特別な日だ。

キラキラと輝くクリスマスツリー。豪華な夕食に大きなクリスマスケーキ。そして何より楽しみなのは、枕元に置かれるプレゼントだ。

サンタクロースからのプレゼント。子供なら誰もが目を輝かせる、年に一度の最高の贈り物だ。

誕生日のプレゼントも良いけれど、クリスマスのプレゼントはそれとはまた違う喜びと楽しさがみっちり詰まっている。子供だけの特権。それがクリスマスプレゼントをより特別なものにしているのだろう。

しかし物心ついた頃から、僕は両親から奇妙なことを言い付けられていた。

「いいかい、マサト。クリスマスの翌日、青い包み紙のプレゼントがあっても絶対に開けてはいけないよ?それが青い箱だったとしてもだ。もしプレゼントが枕元に二つあって、一つが赤い包み紙、もう一つが青い包み紙だったとしよう。そしたら、赤い方だけを開けなさい。いいね?絶対に青い方を開けてはいけない。お父さんとの約束だよ」

何故か父は、クリスマスが近付くにつれて僕に口酸っぱく言い含めていた。

その理由は、僕の幼い好奇心と衝動的な行動によって明かされることになる。

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僕が六歳になった頃だった。十二月のカレンダーと部屋の隅に飾られたクリスマスツリーを眺めては、聖なる夜を今か今かと心待ちにしていた。

テレビをつければクリスマス目前の特別番組。子供向けアニメも季節ネタを扱うことが多いせいで、クリスマスをテーマにした話しばかりだった。おまけにCMともなれば、新発売のおもちゃのものばかりが流れて来る始末。クリスマスを意識するなと言う方が無理な話だ。

珍しく家に父がいたある夜。大好きな国民的アニメを家族で見ながら、父が僕に聞いた。

「マサト、もうすぐクリスマスだね。ご馳走は何がいい?」

「僕、大きいハンバーグがいい。あとチョコケーキ!」

「あら、じゃあママ頑張って作らなきゃね」

僕の頬をむにむにと摘まんで、母が明るい声を上げた。

「マサトはママのハンバーグが大好きだなあ。じゃあ、プレゼントは何がいいんだい?」

「うーん……ゲームも欲しいし、恐竜図鑑も欲しいし……ブロックのおもちゃも欲しい!」

「ははは、マサトは贅沢だな。一個しかサンタさんにはお願い出来ないからね?クリスマスまでに、ちゃんと決めてお手紙を書いておきなさい」

父の言葉に僕は大きく頷いた。これだけなら、どこの家にもある微笑ましいクリスマス前の親子の会話だ。

しかし、父の笑顔はすうっと消え失せ、暗いものへと変化していった。

「でもな、マサト。青い包みのクリスマスプレゼントを開けてはいけないからね?これだけは絶対に守ってくれ。約束出来るかな?」

「うん、分かった。でも、どうして駄目なの?」

「それは言えないんだ。とにかく開けてはいけない。それだけなんだよ」

僕にとって、父の言葉は母のものより重かった。母が嫌いだったわけじゃない。父はいつも仕事ばかりで、なかなか家にいなかったから、家にいて僕と接する時間はとても貴重なものだった。たまにしか家にいない多忙な父を失望させたくない……幼いながらに僕はそんなことを意識していた。

だから、父が駄目と言ったものは絶対に駄目なのだと肝に命じていた。

そして迎えたクリスマス翌日。真冬の朝の冷え込みで、僕は目を覚ました。壁に掛けられた猫型の時計は午前七時を示していた。

冬休みなのだからゆっくり眠っていても良いのだが、手足の冷たさが僕の中から眠気を奪っていき、二度寝することを許さなかった。

はっきりと冴えてしまった僕は布団に潜ったまま辺りを見渡し……プレゼントを見つけた。

ベッドサイドには、緑色の包み紙に赤いリボンのつけられた箱が置かれていた。

サンタさんからのプレゼントだ!

僕は大喜びで飛び起き、プレゼントに掴み掛かった。両腕で抱えるほどの大きさの箱を包む緑色の紙をビリビリと破る。中から現れたのは、僕が欲しがっていたブロックのおもちゃだ。しかも宇宙ステーションを作れる最新版。

新品のおもちゃにはしゃいでいた、その時……視界の端に青いものを見つけた。大きなこのおもちゃに隠れていたであろうそれは、真っ青な包み紙に覆われた小さな箱だった。

ベッドサイドに佇むそれを見て、僕はこれが「開けてはいけないプレゼント」だと瞬時に察した。

見た目は想像していたより、ずっとプレゼントらしいものだ。青い光沢のある包み紙に黄色いサテンのリボン。子供への贈り物というより、大人向けに見える。

何故、開けちゃ駄目なんだろう……何が入っているんだろう……。

これもサンタクロースからの贈り物ならば、きっと素敵なものが入っているはずだ。気になりだしたら止まらないものだ。

僕はゆっくりと手を伸ばした……が、その時。誰かがドアをノックした。

「マサト、起きてるのかい?朝ごはんだよ」

父の声だ。僕は伸ばした手を引っ込めて、ブロックのおもちゃが入った箱を抱き締めた。部屋に入って来た父は僕を見て笑顔を浮かべた。いつもより疲れているように見える笑顔で……。

「おはよう、マサト。あ、サンタさんからのプレゼントだね?良かったな。大事に使うんだぞ」
「うん。無くしたり壊したりしないよ」

その時、父はベッドサイドにある青いプレゼント箱を目敏く見つけ、さっと表情を強張らせた。足早にこちらへと進むと、青い小さなプレゼントを手に取り、僕へと目を向けた。

「マサト、これを開けたりしていないね?」

「う、うん。開けてないよ。朝起きたらそこにあって……でも本当に開けてないよ」

「よし。パパとの約束をちゃんと守ったな。偉いぞ。これはパパが預かる。マサトは着替えて朝ごはんを食べなさい」

いつもより疲れの色が濃い父の顔は、僕が何も言えなくなるほどの凄味があった。箱を持って部屋を出ていった父に、奇妙な感覚を覚えながら僕は真新しいブロックより、あの青いプレゼントの方が気になってしまった。

何故父は、執拗に開けるなと言うのだろう。何が入っているのだろう……。

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それから二年ばかり、クリスマスの翌日に同じ現象を体験した。

目が覚めたらベッドサイドにサンタクロースからのプレゼント……それと一緒に、青い包み紙に黄色いリボンの掛かった小さな箱。

そして父がそれを没収する。

一年でもっとも楽しみな朝のはずなのに、小学生の僕にはそれが不気味なものに思えて来た。

初めて青いプレゼントを貰ってから三年目のクリスマス。やはり同じ現象が僕を襲った。

寒気で目が覚めた僕は、ベッドサイドに目を向け、サンタクロースからのプレゼントを見つけた。

真っ赤な袋に白いリボンをつけたものだ。きっと中身は、秋に発売された大人気ゲームが入っているに違いない。

その隣に……青い小さな箱が佇んでいた。この箱を見たのは、これで三度目だった。

絶対に、開けてはいけない。

毎年のように父に言い含められていた僕だが、多感な子供の好奇心は三年という年月をかけてはち切れんばかりに肥大化していた。

駄目だと言われていることをしたくなるのが、子供というものだ。

ちょっとだけ……ちょっとだけ……

言い訳するように自分に言い聞かせ、赤い袋ではなく青い箱に手を伸ばした。

手に取ると、それは驚くほど軽かった。真っ青な包み紙を破ると、また青い厚紙で出来た箱が現れる。その蓋を……ゆっくりと開いた。

中には、メッセージカードがあった。

そこにあった文字は……

『君がサンタクロース』

たったそれだけだった。あまりの呆気なさに、僕は落胆した。もっと驚くべきものが入っていると期待したのに、あったのはメッセージカード一枚。しかも意味の分からない言葉が書かれているだけなのだ。

箱を床に放り投げカードを眺めていると、父がノックもせずに部屋に入って来た。

「マサト、いつまで寝ているんだい?早く朝ごはんを食べなさい」

穏やかだった父の顔が、床に転がる青い箱と僕の持つメッセージカードを見つけた途端、みるみるうちに険しいものへと変化していった。

「マサト、開けたのか?その箱を、開けてしまったのか?」

「き、気になったから……」

「馬鹿者!絶対に開けるなと言っただろう!開けたら大変なことになる!」

「大丈夫だよ、メッセージカードしか入ってなかったもん」

昔より口が回るようになった僕は、父に言い返してひらりとメッセージカードを見せつけた。

あまり見ることのない父の怒った姿に、子供じみた精いっぱいの虚勢を張る。

「そもそも、なんで開けちゃいけないんだよ。サンタさんから僕への贈り物なのに。どうして駄目なのさ」

「それを開けてしまったら、お前がサンタクロースをやらなきゃいけないからだよ!」

わけが分からなかった。僕が、サンタクロース?呆然としていると、父は僕からメッセージカードを奪い取り、睨むようにそれを見つめた。

「マサト、これはサンタクロース任命のプレゼントなんだ。昔からサンタクロースは、どこからともなく送り付けられる青い箱を開けてしまった者がなると言われている。これを開けてしまったが最後。お前は生涯サンタクロースをやらなきゃいけないんだ」

「で、でもパパ……サンタさんは外国の寒い国に住んでるんじゃ……」

「あれはおとぎ話だ。現実はこうして子供をサンタクロースに任命し、辞めることのできない重い責任と労働を課す恐ろしい存在なんだ」

まるでふざけた都市伝説を聞いている気分だったが、父の表情は真剣そのものだった。嘘や冗談とは思えない剣幕に、僕は震えが止まらなくなった。

「サンタさんって、そんな怖いものなの?」

「子供に素敵なプレゼントを与える人物であることに変わりはないよ。でも、実態はとてもブラックなんだ。重すぎる責任、夜遅くまで休みなく続く作業……しかもお金は貰えない。これが死ぬまで続くんだよ。サンタクロースは世界一ブラックな仕事なんだ」

ブラック企業という言葉をニュースで聞いていた僕は、子供ながらにそれがいかに劣悪な環境下で人を苦しめるものか、何となく想像することが出来た。

これまでの人生で培って来たサンタクロースのイメージが、一気に崩れ落ちた。

「そ、そんな……僕そんなのやりたくないよ」

「駄目だ、マサト。これを開けてしまった以上、逃れられない。サンタ連合はどこまでも箱を開けた者を探し当て、サンタ業務に駆り出すんだ。奴等がどうやってサンタ候補を選び出すのかは分からないが、奴等は必ずやって来る」

「なんでパパがそんなこと知ってるの?」

「何故って?それは簡単なことさ。パパも昔、青い箱を開けてしまってサンタクロースになったんだからね」

父の表情は、絶望を絵にしたような暗いものだった。

その日のうちに、父は母に僕が青い箱を開けてしまったことを告げた。母は顔を真っ青にし、声を上げて泣いていた。息子の将来が暗いものと決定付けられてしまったのだ。無理もない。

ただの子供の好奇心が、一つの家族の未来に暗雲をもたらしたのだ。その元凶である僕も、冬休みだと言うのにワクワクするどころか落ち着かない気持ちのまま数日を過ごした。

年が明けたある夜のことだった。父は仕事から帰ってすぐ、僕を玄関に呼んだ。スーツ姿の父は僕を見つめ、低い声で呟いた。

「マサト、サンタクロースの仕事の時間だ。上着を着てパパに着いて来なさい」

僕は言われるがままに上着を着て、父と一緒に外に出た。家の外には真っ黒なワゴン車が停まっていて、僕と父が乗り込むのを待っていた。

車に乗ると、サングラス姿に真っ白い髭の男がニタニタと笑っていた。

「君が新しいサンタさんだね?これからずっと宜しく」

「は、はい……」

怖かった私は小さい声で返すのが精いっぱいだった。

目隠しのしてある車はどこに向かっているのか分からない。私は仕事帰りで疲れている父の隣で小さくなっていた。車内には、父と同じような仕事帰りや学校帰り風の男女がぐったりと座席に身を預けていた。

「これから行くのは、サンタクロース工場だよ」

ワクワクしそうな名前なのに、僕の中には怖いという感情しかなかった。

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そこは工場とは名ばかりの、ただのビルだった。林の中にぽつんと佇むそこに入ると、数十人の人々が大きなテーブルを囲んで作業をしていた。

年明けから街で見ることのなくなった、赤いサンタ帽子を被っている。微笑ましさも浮わついた空気もない。ただどんよりと重苦しく、陰鬱な空気が漂っているだけだった。

僕が呆然としていると、車を運転していた白髭の男が話し掛けて来た。

「さあ、この赤い帽子を被ってサンタ業務をするんだ。君は初めてだから、パパやおじさんたちが教えてやろう」

「あの……サンタ業務って言っても、クリスマス終わったばかりなのに?」

「当たり前じゃないか。次のクリスマスの準備はもう始まっているんだ。我がサンタ連合は、世間のクリスマスシーズンなど関係ない。毎日がクリスマスだよ。ホゥホゥホゥ!」

陽気な笑い声が、不気味に響いていた。

辺りを見ると、みんなテーブルの上に広げられた地図に何かをメモしていたり、プレゼント用の箱を組み立てていたり、大量のおもちゃの仕分け作業などをしていた。

「これからほぼ毎晩、お墓に入るまでずっとサンタクロースだ。箱を開けたらサンタクロースだからね。クリスマスの夜は大忙しだ。関東地区にプレゼントを配らないといけないのだからね。頑張りなさい」

男は僕の頭に赤い帽子を被せて笑った。

「君がサンタクロースだ」

それから二十年。僕は夜中になると、どこからともなくやって来るサンタ連合とやらの車に乗って、サンタ業務に駆り出された。不思議なことに、逃げ出そうとしても僕の居場所を探り当てて無理やり連れて行くのだ。

逃げられないという父の言葉は本当だった。

寝不足と疲労を約二十年引き摺っているが、幸運なことに僕は家庭を持ち娘にも恵まれた。

子供が出来たら、子供の拙い字で書かれたサンタさんへの手紙を盗み見て、プレゼントを買って、こっそり夜に枕元に置く……それが誰もが思い浮かべ、夢見るサンタクロースの姿だ。親になれば、可愛い我が子の憧れるサンタクロースになれると思っていた。

しかし実態はそうではない。夜中に謎のサンタ連合なる者に工場に連れていかれ、箱の組み立てやらおもちゃの選別、箱詰め、配達ルートの下調べと割り振りをし……削られるばかりの睡眠時間と蓄積される疲労と戦いながらプレゼントの用意と配布を行うのだ。

それが“サンタクロース”だ。

僕はそんな夢も希望もない“サンタクロースというブラック業務”を、生涯背負ってしまったのだ。

あの青い箱を開けてしまった、その日から……。

娘が幼稚園に入って初めてのクリスマス。翌朝娘は、満面の笑顔でプレゼントの箱を僕に見せて来た。

「パパ、見て!サンタさんがくれたの!」

それは可愛らしい着せ替え人形だった。

「良かったね。大事にするんだよ」

「あとね、パパ。変な箱があったの」

そういって娘が差し出して来たのは、青い包み紙の箱だった。

見覚えのある箱に、僕の体はぶるりと震えた。

それを娘の手から奪い取り、震える声で言った。

「いいかい?この青い箱は、絶対に開けちゃ駄目だ。もし開けてしまったら……サンタクロースにされてしまうよ「いいかい?この青い箱は、絶対に開けちゃ駄目だ。もし開けてしまったら……サンタクロースにされてしまうよ

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